令和3年度入学式 校長式辞
新緑が輝きを増し、すがすがしい春の風が吹き抜けていく今日の佳き日に、大阪府立高津高等学校 第七十六回入学式を挙行できますことは、誠に喜ばしいことでございます。
保護者の皆様には立派に成長され高校生となられたお子様の晴れやかな姿を目のあたりにされ、そのお喜びはいかばかりかと拝察し、私ども教職員一同も心から入学生諸君の前途に幸多かれと祝福いたします。
入学生諸君は、今まで支えていただいた保護者の皆様に深い感謝の気持ちを抱いていることと思います。
さて、新しく高津高校で学校生活を始める皆さんに期待することを私の経験から少しお話ししたいと思います。私は、管理職になる前は高校で化学を教えていました。
以前に勤めた学校で、2000年にノーベル化学賞を受賞された、白川英樹という先生と知り合うことができ、以後何度か一緒に実験教室をしたことがあります。
白川先生は、導電性プラスティックというものを作り出したことにより、ノーベル賞を受賞されました。本来、電気を通さないプラスティックを作る際に、触媒という特別な働きをする薬品を加えることにより電気を通すようになることを発見したのです。現在のスマートフォンや駅の券売機などのタッチパネルは、この技術がないと作ることができなかったのですから、大変な発明と言えます。
その白川先生に初めて講演会をお願いした時の話です。白川先生は、ビデオや写真、サインのお願いすらも断られました。気難しい人ではないかと心配していましたが、そうではありませんでした。白川先生は、何事も実際にやってみることが大事である。だから、写真やサインを残すのではなく、実際にその場に出かけて経験することが大事なんだとのお考えからでした。そして、「百聞は一見にしかず」ではなく「百聞は一実験にしかず」とおっしゃられて、今でも中学生や高校生対象の実験教室を自ら指導をされています。
本校は、文部科学省からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定され、大阪府教育委員会からは、グローバルリーダーズハイスクール(GLHS)に指定されています。通常の学校行事の他、希望者による多くの経験の機会が用意されています。まずは、自分から進んで経験の機会に参加してください。そして、これからの人生を歩んでいく上での様々なことを本校で学んでほしいと願っています。
ところで、皆さんは「セレンディピティー」をいう言葉をご存じですか?この言葉も、白川先生に教えていただきました。セレンディピティーとは、「セレンディップの三人の王子」という童話から作られた言葉です。
「セレンディップの三人の王子」は、宝物を探して冒険の旅に出ます。しかし最終的に宝物は見つけられませんでしたが、その冒険の過程でまったく予期していなかった発見や幸運をたくさん得ることができました。このように「思いがけないものを偶然に発見すること。また、その能力」のことを「セレンディピティー」と呼んでいます。
白川先生のノーベル賞は、他の二人の科学者の先生方との共同受賞でした。スウェーデンのストックホルムで行われるノーベル賞の授賞式では、この三人の先生方を、「セレンディップの三人の王子」として紹介されたとのことです。
白川先生は、はじめから導電性プラスティックを作ろうとしていたのではなかったのですが、熱心に研究を続けていく中で偶然にできたものだと言われています。そしてこの発明がノーベル賞に結び付きました。
皆さんも、まず、高校生活での目標を定めてください。そして、その目標を実現するために熱心に努力をしてください。目標が完全な形でかなえられなくても、その過程において、多くの発見や幸運を得ることができるはずです。
まだまだ、新型コロナウイルス感染症による制限が考えられる中ではありますが、可能な限り皆さんの大切な経験が実現できるよう本校の教職員一同は、必死になって皆さんの高校生活を支援します。時には褒め、時には厳しい言葉をかけることもあるかと思います。しかしその全ては、皆さんの将来のためです。皆さんの高校生活が、そしてその先の人生が幸多く、豊かなものとなるように祈っています。
令和三年四月七日
大阪府立高津高等学校
校長 上田信雄